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台湾が好きになる一冊|『路(ルウ)』感想

吉田修一『路(ルウ)』 | 特設サイト(本の話WEB)
ここが詳しい。
台湾の新幹線プロジェクトが物語の幹線だが、そこに日本人、台湾人の過去から現在にかけての物語が支線として延びていったり絡んでいったりしながら、幹線とともに未来へと向かう。
夜の台北を夏祭りが終わっても帰りそびれて神社の境内でたむろしているみたいな感じ、というのは言い得て妙。そんな感じだよな、台北。強いて言えば大阪に似ていなくもないけれど、エネルギーの放射量が断然違う。「町の食堂」が至るところにあって、朝早くから夜遅くまで営業していて、しかも気兼ねなく入れるところも素晴らしい。安くて美味いし。
ただ、台湾を気に入れば気に入るほど、日本の台湾の理解度の低さが気になる。これは本作の中でも描かれていたところ。台湾の日本贔屓を思えば、日本の態度はあまりにつれないのだ。『非情城市』とはいわないが、『海角七号』くらいは観ても罰は当たらないはず。『台北の朝、僕は恋をする』もいい映画だったし、あんなロマンチックな奇跡が起こりそうな気がするのだ、台北は。
身につまされたのがスケジュールに対する考え方。日本人はスケジュール即デッドラインだが、国際的には予定はあくまで予定。台湾なら、スケジュールより遅れれば「それだけ丁寧な仕事をしてくれた」と思い、スケジュール通りなら「どこかで手を抜いた」と訝しがられるのだ。本作を読んで、これからは終わりよければ全てよしの精神でいこう。
『台北の朝〜』で、台湾人が唐突に「可愛いね!」と言うシーンがあるのだが、それくらい台湾では「可愛い」という日本語が一般に浸透している。そして本作の印象を一言でいえばその「可愛いね!」。日本人、台湾人の全ての登場人物が可愛く、電車の中で読んでいて、表情が緩んでしまうのを抑えられなかった。
映画『悪人』を観たし、『横道世之介』も観ようと思っているのに、本作と原作者が同じだったことに気づかないのは何たる不覚!
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by non-grata
| 2013-02-26 18:04
| ノリスゴ本
主人公とともにボクシングを学ぶ|『空の拳』感想

友だちなし、彼女なし、文芸部を志望したのにボクシング専門誌『ザ・拳』に配属された空也。いずれ異動があると思いつつも、生来の生真面目さを発揮し、ボクシング雑誌に関わるならボクシングのことを理解しないとと、取材で訪れたジムに入門する。そこで年齢的に近いプロボクサーと交歓することで、ボクシング以外のことも学び、成長していく。
何より試合の描写が秀逸だ。主人公目線で語られるため、最初は何が起こっているのかわからなかった展開が、取材経験を積み、また自らも身体を動かすことで理解を深めていくことで、具体的なものへと変わっていく。最後に描かれる試合では、闘っているボクサーの心情までが克明になるのだ。このシーン、まるで昭和の街頭テレビの時代にタイム・スリップするよう。
21世紀を迎え、日本のみならず世界中が大きく変化した時代。しかしジムの中は、リングの上は、そんなことはお構いなし、ストイックな空気が流れ続ける。果たしてそれは、ボクシングだけが持つ不変な何か、例えば剥きだしの闘争本能を遠慮なくぶつけ合えるといった特性のためだろうか?
否、である。だがその答えを導き出すために、主人公にはもう一段階、成長してもらわなければならない。と同時に読む者も、自分が立つべきリングはどこにあるのか、拳は生きているか、そして自分が立っているその場所で面白いと笑っていられるのか、自問することになる。
メジャーすぎるので角田光代の小説はこれまで何となく敬遠してきたけど、もったいないことした!
昨年末、博多からの帰りの新幹線で読み始めたわけですが、さすがに新幹線を乗り過ごすようなことはなく。
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by non-grata
| 2013-01-09 17:59
| ノリスゴ本
メタで叙述なループもの|『リライト』(法条遥)感想
読書時間の殆どは通勤電車の中なんですが、降りなきゃいけない駅についても「もうちょっとこのまま! 続きを読ませて!」と思う一冊に稀に出会います。「乗り過ごしても食いはないすごい本」略して「ノリスゴ本」。
主人公は14歳の中学生。担任に言われて、用がない限りは誰も近づかない旧校舎に教材を取りに行き、そこで300年後の未来からやってきたという未来人(美少年)と出会う。彼は20世紀末から21世紀初頭に書かれたと推測される小説を読みたくて時空を飛び越えてきたのだと言い、ぼろぼろになった紙片を見せる。それから3週間ばかり、二人は小説を探す。
ところが、二人がいた旧校舎が崩壊、未来人が生き埋めとなってしまう。5秒間だけタイム・リープできる錠剤を手にしていた主人公は10年後に飛び、目の前にあった携帯電話を握り締めて戻ってくる。携帯電話は未来人が持つ端末に通じ、居場所が明らかとなった彼は、警察や救急によって助けられた──過去の改変(リライト)は免れたのである。
10年後、主人公は10年前の自分がタイム・リープしてきた場所に携帯電話を用意する──過去を改変しないために。しかし、いつまで経っても10年前の自分は現れない。
物語は2002年と1992年を行ったり来たりしつつ、そこに主人公が自分の体験をもとに書いたという小説(劇中作)が混じりつつ、しかもその小説には応募した時のものと書き直し(リライト)したものがある。もちろん10年の歳月が過ぎる中で結婚して名字が変わった者もいるので、気をつけておかないと誰のことを書いているのかわからなくなるという罠も用意されている。
「ラベンダーの香り」など、『時をかける少女』へのオマージュも盛り込まれている。何たって時を翔ちゃうのだから。
タイム・リープして、自分自身の過去に直接的な影響を与えることはできないが、バタフライ・エフェクトによって現在と未来は改変(リライト)され得るという世界観が恐い。だって、10年も前の記憶なんてあやふやなものだし、過去は自分に都合の良いように保存されているものだ。それが「実はこうだった」と説明されたら、ああ自分の記憶は間違いだったと考えを改めるかもしれないし、超自然的な力が働かなくても、その新しい認識から自分の今が、未来が変わっていくことだってあり得る。同窓会で久しぶりに級友と話をして、「ああ、あれはそういうことだったのか」と認識を新たにしたことってありません?
畳みかけるように全てが明かされるラストは圧巻。

ところが、二人がいた旧校舎が崩壊、未来人が生き埋めとなってしまう。5秒間だけタイム・リープできる錠剤を手にしていた主人公は10年後に飛び、目の前にあった携帯電話を握り締めて戻ってくる。携帯電話は未来人が持つ端末に通じ、居場所が明らかとなった彼は、警察や救急によって助けられた──過去の改変(リライト)は免れたのである。
10年後、主人公は10年前の自分がタイム・リープしてきた場所に携帯電話を用意する──過去を改変しないために。しかし、いつまで経っても10年前の自分は現れない。
物語は2002年と1992年を行ったり来たりしつつ、そこに主人公が自分の体験をもとに書いたという小説(劇中作)が混じりつつ、しかもその小説には応募した時のものと書き直し(リライト)したものがある。もちろん10年の歳月が過ぎる中で結婚して名字が変わった者もいるので、気をつけておかないと誰のことを書いているのかわからなくなるという罠も用意されている。
「ラベンダーの香り」など、『時をかける少女』へのオマージュも盛り込まれている。何たって時を翔ちゃうのだから。
タイム・リープして、自分自身の過去に直接的な影響を与えることはできないが、バタフライ・エフェクトによって現在と未来は改変(リライト)され得るという世界観が恐い。だって、10年も前の記憶なんてあやふやなものだし、過去は自分に都合の良いように保存されているものだ。それが「実はこうだった」と説明されたら、ああ自分の記憶は間違いだったと考えを改めるかもしれないし、超自然的な力が働かなくても、その新しい認識から自分の今が、未来が変わっていくことだってあり得る。同窓会で久しぶりに級友と話をして、「ああ、あれはそういうことだったのか」と認識を新たにしたことってありません?
畳みかけるように全てが明かされるラストは圧巻。
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by non-grata
| 2012-11-22 11:20
| ノリスゴ本
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