(M10)ちょっと長いけど面白かった|『KANO』感想(★★★★★)
仕事の連絡は遅いのに、「来週台湾来るなら『KANO』行こうぜ。まだ俺観てないんやわ」とSkypeで誘ってくれた得意先の台湾人に連れられて、『KANO』に行ってきました。公開2週間で興行成績2億台湾ドル(6億円くらい)と、大ヒットなんだそうです。
で、映画館に行ってみると
この人だかり。平日21時30分からの回ですよ? この時は出演者の一人が来ていたらしく、それほど有名な役者さんではなかったそうですが、これだけの熱狂ぶりです。ちなみに映画が終わったのは午前1時。平日でも2時3時まで上映しているそうです。代金は日本の半分くらいで予約制。
指導のあり方で上司と対立、高校野球に背を向けた近藤(永瀬正敏)が、創部以来1勝もしたことのない嘉義農業高校(KANO)野球部の監督を務めることになる。その指導の厳しさは「鬼」と形容されるほどで、周囲からも心配されるほど。勝ち負けより体力づくりが目的なら、ほどほどでいいんじゃないの?
最初は監督に言われるまま練習していた部員たちだが、敗北の悔しさを知ってから一転、一つの目的を目指して一致団結する。このへんはステロタイプのスポーツものとは言え、ぐっときます。星一つ。どうせ勝てっこないからと、支援を渋る校長や地元の名士に対し、啖呵を切る永瀬がまたいい。詳しくは描かれていないですが、自腹を切って遠征させたんでしょう。男泣き必至で星一つ。
終盤はKANOが甲子園へ進出してからの試合で、無名校の活躍が日本中の注目を集めます。人種差別的な質問を浴びせた記者が改心するくらい、選手たちのひたむきな姿勢が胸を打ちます。星一つ。バットを折りながらも甲子園のフェンスに打球を直撃させた初のアジア人がKANOの選手で、試合中断までして審判団がフェンスに墨で印をつけ、選手にサインさせるというエピソードには、感動的なものがあります。星一つ。
さて、この試合は昭和6年(1931年)のことで、10年後には太平洋戦争が始まります。映画は戦争末期、KANOと準々決勝を戦った札幌商業のエース、錠者(だったか)投手が徴兵され、台湾に送られたところから始まります。彼は列車で基隆から任地へ送られる途中、嘉義に立ち寄ります。その駅では現地召集された人の姿も見受けられ、当時の日本軍がKANO同様、他民族の混成であることを思い知らされます。
しかし現実には五族協和(本作に関して言えば満州と朝鮮を抜いた三族)の理想にはほど遠かったわけですが、KANOは、その可能性があることを感じさせてくれます。ただし、あのシーンとかこのシーンの描写をこれこれこういうことの暗喩だと身勝手に解釈するのは危険です。だから××は正しかったんだ、とか、台湾だけは日本の友人だ、とか、浅薄で狭量な思想に流されてはいけません。
選手たちの「その後」が、『アメリカン・グラフティ』のように最後に少し語られ、そこだけ繁体字の字幕しかなかったので詳細はわかりませんでしたが、少なくとも二人が南洋で戦死されています。その事実だけをもってしても、単純に語れないのです。映画を観終わった後、英語のボキャブラリーが貧弱すぎたこともありますが、台湾人に対して感想を述べるのに躊躇しました。
野球映画としてだけではなく、時代背景も含めていろいろ考えさせてくれる『KANO』は、期待通り素晴らしい作品でありました。星一つ。
なお全編ほぼ日本語なので、字幕なしでも鑑賞に問題ありません。
by non-grata
| 2014-03-19 09:49
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