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おっさんノングラータ

(B08)我々は戦争経済を知らない|『「レアメタル」の太平洋戦争』感想(★★★★★)

(B08)我々は戦争経済を知らない|『「レアメタル」の太平洋戦争』感想(★★★★★)_d0252390_88553.jpgレアメタル──希少金属の争奪が数年前に話題になりましたが、いやいやそんなもん70年以上前から問題でっせ、ということを教えられました。

戦争は資源の獲得が焦点であり、八紘一宇の大義名分を掲げた太平洋戦争も所詮は南方資源欲しさに始めた戦いであり、開戦理由を聞かされた東条英機をして「結局、このワシに物盗りをやれというのか」と憮然とした表情を浮かべたと伝えられています。

で、「南方資源」と言われて真っ先に思い浮かぶのがインドネシアの石油ですが、戦争遂行には鉄や銅といったベースメタルはもちろん、タングステンやマンガン、ニッケル、クロムといったレアメタルも欠かせません。本書では銅をタンパク質、鋼を骨格、レアメタルをビタミンに例えてきっちり解説してくれます。そして副題「なぜ日本は金属を戦力化できなかったのか」にある通り、日本の産業構造、総力戦体制の脆弱さ、無策さを追究しています。星一つ

知っているつもりで知らないことが多くて、非常にためになります。例えば、

●超16インチ砲艦でアメリカに勝負を挑むという考え方そのものはあながち間違いとは言えない。少なくとも43年までは、アメリカも大艦巨砲主義に拘泥していたし、戦艦の建造には長い歳月を要する。2年ほどのリード・タイムをアドバンテージに転化できるという発想そのものは健全である。もちろん航空優位が現実だったわけで、大艦巨砲主義そのものは過ちですが、物量戦になるとアメリカには勝てない=航空消耗戦では勝てない=航空優位論を唱えるなら戦争しちゃいかんでしょ、となります。大型戦艦の建造そのものにも膨大な鋼材が必要ですが、それを建造するための設備にもまた、膨大な鋼材が欠かせないというのも盲点でした。

●航空機を増産するのにアルミニウムを確保するだけではままならない。生産設備に工作機械、爆弾、魚雷、機銃弾の増産、搭乗員の練成も必要になる。そりゃあ当たり前ですよね。重金属から軽金属への産業シフトは大変で、ドイツでは飛行機の代わりに対空砲を増産しようとして苦労したということでした。

●太平洋戦争で、日本は緒戦で計画通り資源地帯を占領したが、思惑通り資源を確保することはできなかった。
フィリピン:マンガン産出量26,000トン/年だったのが、占領後200トン/年に。クロムは148,000トン/年が10,000トン/年に。
マレーシア:鉄鉱石100万トン/年だったのが、占領後は数万トン/年に。
インドネシア:錫54,000トン/年だったのが、占領後は5分の1に。
これだけ激減した理由は連合軍が撤退時に施設を破壊したからでも抗日ゲリラの妨害に遭ったからでもなく、単に運営能力の欠如によるものと、著者は指摘しています。熟練労働者は戦地に駆り出されており、現場のことをわかっていない役人が送り込まれたところで、できることと言えば軍票を乱発して地域経済を混乱させることだけ。まともな生産活動ができるはずもありません。八紘一宇、五族協和の精神は何処へ? 現代にも通じる問題提起に星一つ

●無謀なFS作戦は、ニューカレドニアのニッケルが狙いだった。FS作戦に限らず、「漏れなくレアメタルがついてくる」と言っておけば無茶な作戦も通るところがすごい。ドイツも似たようなもので、東部戦線でヒトラーがニコポリの死守命令を出したのはマンガンが産出されるから。実際は備蓄分はルーマニア、ハンガリー分があるのでそんなことはなかったそうですが、ニコポリのマンガンを失えばドイツの軍需産業は3カ月で息の根が止まると言われていました。そうすると東部戦線末期、赤軍がベルリンに向かっているのにハンガリーに主力を送り込んだのも納得がいきます。レアメタルが軍事のモチベーションになっていると教えてくれたことに星一つ

戦争には戦略という目標があって、軍事的にそれを遂行するために作戦術が編み出されました。それが19世紀のことで、作戦を有利に遂行するために戦術が、戦術を発展させるために兵器が開発されていきました。そしてその兵器を進歩させ、安定供給するためにはシステム化された産業が必要です。原材料の獲得、それを生産地まで送り届ける手段の確保、生産設備の整備、前線への供給といった一連の流れがシステムとして確立できていなければなりません。そしてそのシステムが戦略目標と同じ方向を向いていなければならないことは言うまでもないでしょう。そうした発想が戦勝国にはあり、敗戦国にはなかったわけで、さて我が身を振り返った時に、果たしてその敗戦から学べているのか自信が持てなくなります。星二つ






by non-grata | 2014-02-20 09:17 | 読書

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