八紘一宇は実現するか?|『この空のまもり』感想
現在から続く未来
今年の夏、出雲へ旅行に行った。そこで初めて、ようやくにしてARアプリを使ってみた。特定のポジションから宍道湖や出雲神社にカメラを向けると、出雲博のゆるキャラやかつての出雲神社の姿がバーチャルに表示されるというものだ。思ったほどの驚きはなかったが、何かの可能性を感じさせるものだった──『この空のまもり』で描かれる通り、様々な場所に情報タグを貼り付けることができれば、なるほど便利だ。いちいちwebで検索して情報を拾うまでもない、スマートフォンをかざしたり、「強化現実眼鏡」をかけて風景を眺めるだけで情報が飛び込んでくるのだから。
ただし、その情報が善意に基づくものであるなら。無秩序に貼られたタグであれば、事実かどうかわからない。「風評の流布」だってあり得る。もちろんサクラも。技術の発達に法整備が間に合わず、日本中のあちらこちらに悪性のタグが貼り付けられ、空は中国語、韓国語で書かれた政治的スローガンで埋め尽くされる。それが本作が描く未来である。
匿名掲示板や学校の裏サイトにあることないこと書かれた経験を持つ人なら、十分にあり得る未来だと感じることだろう。また、「逆SEO」なる怪しげな職業を知っている人もリアルに感じるはずだ。webには、特定のキーワードの検索順位を上げたり、また特定のキーワードで検索されると困るページを相対的に下げるためだけに存在する、無意味なサイトが無数の存在するのだ。webはゴミだらけだ。
過去から続く現在、そして未来
そもそも我々は、レッテルを貼って物事を単純化してきた。もっと手軽にそれができるのであれば、あらゆるものにタグをつけ、カテゴライズしてしまうだろう。
誰かがタグ付けを始めれば、別の人も同じようにする。ゴミが落ちていれば、そこらにゴミを捨てても構わないと思われ、往来はゴミだらけとなる。「割れ窓理論」だ。これは仮想現実だけではなく、リアルでも同じこと。いや、リアルでやってきたことは、仮想現実でも行われるというべきか。
ちょうど本作を読了した日、はるかぜちゃんが次のツイートしていた。
「だれも見ていないと思って、ひとりがごみを捨てる。そのあとに通った人が、ごみを捨ててもいいのかなと、またごみを捨てる。そのうちその道が、街が、大きなごみ箱になる。誰かがそうじしなくちゃいけないのは分かってるけど、みんな見てみぬふりをする。」
「いつしかそこは便利なごみの街になって、じぶんの街を汚したくない人の、便利な場所になって。 そこを片付けようとする者があらわれると、余計なことをするなと言われるようになって。そうすると、もう、取り返しはつかない その街はくさりはて、やがて、その星じゅうをくさらせるもとになる。」
「ていう絵本を書いたら、今の状況が、わかってくれる人がふえないかなあ(ω)」
11歳の彼女にこんなことをつぶやかせてしまうほど、残念ながら今のwebはひどい状態なのである。
では、我々は救いようがない存在かと言えば、そんなことはない。本作を読めば希望を抱くことができるはずだ。
愛国心とは何か
本作のテーマは「愛国心」とは何か、である。読んで字のごとく、愛国心とは国を愛する心だが、では国とは何か。経済活動が国境を越えて久しく、複数の国家間で通貨が統合されたり、内政干渉も可能なシステムができつつある(今読んでいる新書では、それは崩壊に向かうと予言されているが)。インターネットは、検閲というフィルターがないわけではないが、時間と空間を飛び越えて個々人を結びつけることが可能だ。こんな時代に従来型の国という概念に意味があるのだろうか。
「ない」がその答えだろう。だからレッテル貼り、タグ付けは愛国心とは対極に位置する行為であり、なるほど胡散臭い自称「愛国者」ほどレッテルを貼りたがる。
「(愛国心という)獣は猛獣で人類史上何人も何人も殺してきたのだが、同時にひどく慈悲深く、同胞を助けるために何人もの人々に寄り添っては立ち上がるまでその心を守ってきたのだった」と、『高機動幻想ガンパレード・マーチ』で、少年少女を戦場に送り込んだ準竜師は書く。
不幸な使われ方をしてしまったが、究極の愛国心こそ、架空軍がスローガンに掲げる「八紘一宇」なのである。八紘一宇の世界なら、隣人の周りに「ゴミ」が散らかっているのに耐えられるわけがない。世界は、強化現実なのかリアルなのかに関係なく、今よりずっと暮らしやすいはずだ。
今年の夏、出雲へ旅行に行った。そこで初めて、ようやくにしてARアプリを使ってみた。特定のポジションから宍道湖や出雲神社にカメラを向けると、出雲博のゆるキャラやかつての出雲神社の姿がバーチャルに表示されるというものだ。思ったほどの驚きはなかったが、何かの可能性を感じさせるものだった──『この空のまもり』で描かれる通り、様々な場所に情報タグを貼り付けることができれば、なるほど便利だ。いちいちwebで検索して情報を拾うまでもない、スマートフォンをかざしたり、「強化現実眼鏡」をかけて風景を眺めるだけで情報が飛び込んでくるのだから。
ただし、その情報が善意に基づくものであるなら。無秩序に貼られたタグであれば、事実かどうかわからない。「風評の流布」だってあり得る。もちろんサクラも。技術の発達に法整備が間に合わず、日本中のあちらこちらに悪性のタグが貼り付けられ、空は中国語、韓国語で書かれた政治的スローガンで埋め尽くされる。それが本作が描く未来である。
匿名掲示板や学校の裏サイトにあることないこと書かれた経験を持つ人なら、十分にあり得る未来だと感じることだろう。また、「逆SEO」なる怪しげな職業を知っている人もリアルに感じるはずだ。webには、特定のキーワードの検索順位を上げたり、また特定のキーワードで検索されると困るページを相対的に下げるためだけに存在する、無意味なサイトが無数の存在するのだ。webはゴミだらけだ。
過去から続く現在、そして未来
そもそも我々は、レッテルを貼って物事を単純化してきた。もっと手軽にそれができるのであれば、あらゆるものにタグをつけ、カテゴライズしてしまうだろう。
誰かがタグ付けを始めれば、別の人も同じようにする。ゴミが落ちていれば、そこらにゴミを捨てても構わないと思われ、往来はゴミだらけとなる。「割れ窓理論」だ。これは仮想現実だけではなく、リアルでも同じこと。いや、リアルでやってきたことは、仮想現実でも行われるというべきか。
ちょうど本作を読了した日、はるかぜちゃんが次のツイートしていた。
「だれも見ていないと思って、ひとりがごみを捨てる。そのあとに通った人が、ごみを捨ててもいいのかなと、またごみを捨てる。そのうちその道が、街が、大きなごみ箱になる。誰かがそうじしなくちゃいけないのは分かってるけど、みんな見てみぬふりをする。」
「いつしかそこは便利なごみの街になって、じぶんの街を汚したくない人の、便利な場所になって。 そこを片付けようとする者があらわれると、余計なことをするなと言われるようになって。そうすると、もう、取り返しはつかない その街はくさりはて、やがて、その星じゅうをくさらせるもとになる。」
「ていう絵本を書いたら、今の状況が、わかってくれる人がふえないかなあ(ω)」
11歳の彼女にこんなことをつぶやかせてしまうほど、残念ながら今のwebはひどい状態なのである。
では、我々は救いようがない存在かと言えば、そんなことはない。本作を読めば希望を抱くことができるはずだ。
愛国心とは何か
本作のテーマは「愛国心」とは何か、である。読んで字のごとく、愛国心とは国を愛する心だが、では国とは何か。経済活動が国境を越えて久しく、複数の国家間で通貨が統合されたり、内政干渉も可能なシステムができつつある(今読んでいる新書では、それは崩壊に向かうと予言されているが)。インターネットは、検閲というフィルターがないわけではないが、時間と空間を飛び越えて個々人を結びつけることが可能だ。こんな時代に従来型の国という概念に意味があるのだろうか。
「ない」がその答えだろう。だからレッテル貼り、タグ付けは愛国心とは対極に位置する行為であり、なるほど胡散臭い自称「愛国者」ほどレッテルを貼りたがる。
「(愛国心という)獣は猛獣で人類史上何人も何人も殺してきたのだが、同時にひどく慈悲深く、同胞を助けるために何人もの人々に寄り添っては立ち上がるまでその心を守ってきたのだった」と、『高機動幻想ガンパレード・マーチ』で、少年少女を戦場に送り込んだ準竜師は書く。
不幸な使われ方をしてしまったが、究極の愛国心こそ、架空軍がスローガンに掲げる「八紘一宇」なのである。八紘一宇の世界なら、隣人の周りに「ゴミ」が散らかっているのに耐えられるわけがない。世界は、強化現実なのかリアルなのかに関係なく、今よりずっと暮らしやすいはずだ。
by non-grata
| 2012-11-07 23:49
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