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おっさんノングラータ

湿地

湿地_d0252390_105211.jpg訳者あとがきにある「どこかの国を知りたかったら、ミステリ小説を読めばいい」とはイアン・ランキンの言葉だそうだが、まさにその通りで、『湿地』を読んでアイスランドが少し身近に感じられた。北欧ミステリに共通する暗さと悪天候。こちらの場合は雨、雨、雨。タイトルにもなっている湿地もまた、陰鬱な気分に拍車をかけてくれる。

どこかで似たような話を読んだと思ったら、『ミレニアム』シリーズ。スウェーデンは、女性の社会進出が進んでいる(と聞く)北欧なのに、女性に対する性暴力が、人口の割合に対して多いそうだ。血縁へのこだわりや、それに関連して時間に対する興味そう。『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』で、作者が、北欧の人間は冬になると家に閉じ込められるので、どうしても自分を見つめ直す時間が多くなると語っていたが、空間的制約によって衝動が時間に向かうのかもしれない。本作も、アイスランドという限定された空間が舞台だが、時間的な飛躍が物語に奥行きを与えている。

発端は一人の老人の死。ありきたりな物取りの犯行かと思われたが、犯行現場に謎めいたメッセージと、被害者が墓石の写真を隠すようにしまい込んでいたことを不審に思った犯罪捜査官が真相に迫っていく。

ど直球の警察小説として楽しめるのはもちろん、謎解きものとしても面白く、またそれが娘とのサイド・ストーリーとも絡んでくる。しかし事件が解決しても青空は見えてこない。『プロメテウス』冒頭の空のような鉛色だ。それは主人公の生真面目さによるのかもしれない。「しまいには悪事と悲惨さが当たり前になって、普通の人間がどんな暮らしをしているのかを忘れてしまうんだ。今度の事件はそういうたちのものだ。しまいにはおれ自身、数多の中を勝手に飛び回る悪霊のようなものになってしまうんだ」と言って感情を爆発させつつも、この事件から逃げることなく受け止める。

シリーズものだそうで(本作は第3作に当たり、前2作は日本未発売)、これは次作も期待したい。






by non-grata | 2012-10-12 13:27 | 読書

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