おっさんノングラータ

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『奪命金』感想(ネタバレ)

d0252390_8343384.jpg「奪命」ときて「金」、それでいて香港映画、怪しげな男性二人と女性一人が大写しになったポスター。こりゃアクション映画に違いないと思って劇場(シネマート心斎橋)へ足へ運んだのだが、予想外れもいいところ。でも期待した以上に楽しい時間を過ごすことができた。

オフィシャル・サイトはここ。iMDbはここ

タイトル通り、「金」をめぐる群像劇で、
1)マンション購入に積極的な妻を持つ警官の夫婦。夫(リッチー・レン)はそれよりも仕事が大事
2)営業成績の不振に悩む銀行員(デニス・ホー)
3)義理堅い、昔気質のヤクザ(ラウ・チンワン)
が主な登場人物。接点がないはずの3人が、ユーロ危機という、これまた縁遠いイベントで交わることになる。

1)の妻は独断でマンション購入を進めようと2)に融資を求める。

1)の警官は3)の兄貴分をしょっ引く。保釈金を準備するため、3)は兄弟分を尋ねる。その兄弟分は株の売買で儲けていたが、ユーロ危機で大暴落。別のヤクザの資金運用に失敗、しかもそれをごまかそうとしたものだから殺されそうになる。そこで3)は親分の誕生日会で知り合った金貸しから金を借り(ると見せかけて脅して奪い)、違法なデイトレードで一発逆転を狙おうとする。

金貸しは3)の借金に申し出に従い2)の銀行で現金1000万ドル(約1億1000万円)を引き出すが、担保(権利書)が半分しか用意できないと連絡を受けたため、500万ドルの現金を2)に「戻しといてくれ」と渡して銀行の駐車場へ。そこで何者かに襲われ、死亡する。

銀行には1000万ドルを引き出した記録はあるが、500万ドルを入金した記録はない。そして口座の名義人は死に、金貸しが持っていた500万ドルも誰かが持って行った。じゃあ、手元に残った500万ドルはどうなる?

と、最初はばらばらに進行していたエピソードが思いがけないところで交錯していくのだ。

誰もが金に関わるのだが、2)が手にする500万ドルは他人の金だし、3)にしても兄貴分にしても、他人の金で儲けている。2)の銀行に老後の資金運用で相談にきたおばさんも、楽して金を儲けようとした(このおばさん、ガス自殺騒動のあったアパートに住んでいた模様)。実体を伴わない金を動かして幸せになろうとした人々が、ユーロ危機という、これまた遠い外国の騒動によって振り回されてしまうという皮肉。そして、金に縁のなかった1)(手付けを打ったマンションが暴落後の反発で高騰)、2)(犯罪を犯したわけだが)、3)(兄弟分がなくなったので一発逆転で儲けた金を懐に)の人生が狂うかもしれないという示唆を残して「劇終」となる。

「Life without Principle」という英語タイトルが腑に落ちる。

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ラウ・チンワンが男気を見せるシーン……なんだけれど、笑えてしまう。最後の葉巻は成り上がった自分へのご褒美か、それとも亡くなった兄弟分への手向けか。

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ゲス顔の金貸し(左)。映画の冒頭で、デニス・ホーに金の何たるかを説く。で、金に振り回される人生は金で命を落とすのだと、身をもって教えてくれるのだ。



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by non-grata | 2013-02-28 09:59 | 映画

台湾が好きになる一冊|『路(ルウ)』感想

d0252390_17175761.jpg新聞の書評を読んで気になって買って、しばらく積ん読状態が続いていたが、このほどようやく読了。抜群に面白かった。本書については、
吉田修一『路(ルウ)』 | 特設サイト(本の話WEB)
ここが詳しい。

台湾の新幹線プロジェクトが物語の幹線だが、そこに日本人、台湾人の過去から現在にかけての物語が支線として延びていったり絡んでいったりしながら、幹線とともに未来へと向かう。

夜の台北を夏祭りが終わっても帰りそびれて神社の境内でたむろしているみたいな感じ、というのは言い得て妙。そんな感じだよな、台北。強いて言えば大阪に似ていなくもないけれど、エネルギーの放射量が断然違う。「町の食堂」が至るところにあって、朝早くから夜遅くまで営業していて、しかも気兼ねなく入れるところも素晴らしい。安くて美味いし。

ただ、台湾を気に入れば気に入るほど、日本の台湾の理解度の低さが気になる。これは本作の中でも描かれていたところ。台湾の日本贔屓を思えば、日本の態度はあまりにつれないのだ。『非情城市』とはいわないが、『海角七号』くらいは観ても罰は当たらないはず。『台北の朝、僕は恋をする』もいい映画だったし、あんなロマンチックな奇跡が起こりそうな気がするのだ、台北は。

身につまされたのがスケジュールに対する考え方。日本人はスケジュール即デッドラインだが、国際的には予定はあくまで予定。台湾なら、スケジュールより遅れれば「それだけ丁寧な仕事をしてくれた」と思い、スケジュール通りなら「どこかで手を抜いた」と訝しがられるのだ。本作を読んで、これからは終わりよければ全てよしの精神でいこう。

『台北の朝〜』で、台湾人が唐突に「可愛いね!」と言うシーンがあるのだが、それくらい台湾では「可愛い」という日本語が一般に浸透している。そして本作の印象を一言でいえばその「可愛いね!」。日本人、台湾人の全ての登場人物が可愛く、電車の中で読んでいて、表情が緩んでしまうのを抑えられなかった。




映画『悪人』を観たし、『横道世之介』も観ようと思っているのに、本作と原作者が同じだったことに気づかないのは何たる不覚!



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by non-grata | 2013-02-26 18:04 | ノリスゴ本

ヤバいの意味は?|『リフレはヤバイ』感想

d0252390_13441135.jpgこの手の本の評価はAmazonのレビューで真っ二つに分かれるのが面白い。工作員も混じっているかもしれないが、★五つ派と一つ派がしのぎを削った結果、見事に★三つくらいに全体の評価が落ち着く。

「リフレ」とは故意にインフレを起こすこと。昔はインフレは悪いと言われるが、昨今はデフレが悪者。景気が低迷しているのはデフレのせいであり、2%までのインフレ率ならむしろ健全。だったらインフレにしましょうよ、というわけだ。金融緩和で紙幣を発行すれば、物価が上がるし円安になって輸出企業が儲かるし、万々歳。

いやちょっと待て。インフレには コストプッシュ・インフレとデマンドプル・インフレがあって、後者なら健全だが前者はヤバいのではないか? と本書は問いかける。円安になって輸入原材料のコストが上がれば物価に反映される。そもそも需要がないのだからデマンドプルにはならない。価格だけ上がっても、上がったぶんだけ売上げが下がり、そうなると労働者の給与が上がるはずもなく……というスタグフレーション待ったなし! となる。

人口も減少、終身雇用でもなくなった今、デマンドプル・インフレを期待しにくい以上、著者の主張通り、安易に円安は喜べない。コストプッシュでも何でも、インフレが経済成長につながって見せかけの経済成長はするだろうから消費増税は決定、途端に全面株安展開の経済失速にならないことを祈りたい(小並感)。



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by non-grata | 2013-02-25 14:12 | 読書

高卒vsビン・ラディン|『ゼロ・ダーク・サーティ』感想

普段使いのinfinityのノーズパッドが壊れました。
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長く使っているので経年劣化か? 片方は生きているので、なぜか机の引き出しにあった靴用接着剤の点づけで応急修理。買い換えるか。

眼鏡市場にinfinityそっくりなデザインのモデルがあったけど、あれは許されるんだろうか。




d0252390_942573.jpg少し前にこんなニュースが話題になった。

ビンラディン殺害の「武勲」の元米兵 年金や保険ない生活苦

最後まで記事を読むと、タイトルに「!?」をつけるべきかという気もしてくるが、アメリカの帰還兵が辛い思いをしたり、虚無感に襲われたりするのはベトナム戦争、いや朝鮮戦争以来の伝統か。ともあれ、ビン・ラディンを殺害したネプチューン・スピア作戦をテーマにした『ゼロ・ダーク・サーティ』にしてみれば、映画への興味を喚起するニュースであった。

「ゼロ・ダーク・サーティ」とは午前0時30分を指す。海兵隊の特殊部隊SEALがビン・ラディンの潜伏先を襲撃した時間で、劇中でもマヤ(ジェシカ・チャステイン)が時計を見ると、その時間が表示されているというシーンがある。この襲撃が本作のクライマックスになるが、そこに至るまでが長い。決して退屈というわけではないが、何せビン・ラディンを追い詰めるのに10年もかかったのだから仕方がない。もともと本作は、その10年間の失敗をテーマにしていたそうだが、脚本を全面的に書き換え(そりゃそうだ)、ネプチューン・スピア作戦までカバーすることとなった。この作戦シーンは全部で25分あるが、実際の作戦よりほんの数分、短いだけだという。

以下、ネタバレあり。

物語は高卒でCIAにリクルートされた(ことは後々明らかにされる)マヤが、パキスタンへ赴任したところから始まる。捕虜を拷問したり、アル・カイーダに騙されて仲間を自爆テロで失ったりしながらビン・ラディンの隠れ家を突き止める。突き止めてからも、「イラクに戦争しかけたけど大量破壊兵器なんてありませんでした、てへ」の失敗を繰り返すわけにはいかないから、CIAは慎重になる。このマヤが見つけた隠れ家にビン・ラディンが潜んでいる可能性を長官に問われて、大の男たちは煮え切らない返事。パキスタンからさっさと本部へ引き揚げた元上官は「よくて60%」と答え、マヤを呆れさせる。「100%、でもそれだと皆びびるから95%」それがマヤの答えである。男前だ。

最初のCIA長官とのブリーフィングでも、マヤの男前ぶりは発揮される。長官に誰何され、「この場所を見つけたマザーファッカーです、長官」ときたもんだ。

前掲のニュースの中でも触れられている、元SEAL隊員による著書『NO EASY DAY』にもマヤに相当する人物がちらっと登場するらしい。同書では、実際は隠れ家を爆撃するのか、それとも特殊部隊で襲撃するのか、喧々諤々の議論がかわされたそうだが、映画ではその件はカット。代わりにマヤに、SEAL隊員たちを前にしてこう言わせる。「率直に言って、あなたたちとその装備を送り込むつもりはなかったの。できれば、爆弾を落としてやりたかった。でも、誰もそこまで情報を信じてくれなかったってわけ。だからあなたたちをカナリアとして使います。もしそこにビン・ラディンがいなければ、こっそり戻ってくることができる。でももしいれば、殺して。私のために」

マヤが帰国するための専用機(C-130か?)に乗り込むシーンで幕が下りる。パイロットが「あんたは相当な大物なんだな。どこでも好きなところへ飛ぶぜ」と軽口を叩く。これが第二次世界大戦の映画なら軽口で返せるかもしれない。しかしこれは、誰が誰と何のために戦っているのかさえもよくわからないテロ戦争。彼女がただ涙するのも仕方がなかった。



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by non-grata | 2013-02-19 10:28 | 映画

性風俗史としても秀逸|『幽女の如き怨むもの』感想

d0252390_15391240.jpg年末に「このミス」を読んで、そうそう三津田信三の新刊出てたんだ、と思い出して買ってきて正月に読む、というのがここ何年かのパターン。今年の正月休みはノー読書デーが続いたので、ようやく読了した次第。

とある遊郭で起きた、戦前、戦中、戦後の投身自殺。その謎に、我らが刀城言耶が挑む。戦前の話は最初は身売りされた娘の日記。戦中は女将の証言。戦後は、ある作家が書いた文章という体裁で物語が展開し、刀城言耶の「解釈」で占められる。

「この世の全ての出来事を人間の理知だけで解釈できると断じるのは人の驕りである。
この世の不可解な現象を最初から怪異と受け入れてしまうのは人の怠慢である」

作中に登場する作家が引用する刀城言耶のこの言葉こそ本書を楽しむ姿勢で、読者なりに日記と証言、それに連載記事からくみ取れる情報を咀嚼し、できる限り解釈しようと努力するのが実に楽しい。もちろん純粋に読み物としても面白く、かつ本作は日本の性風俗史も詳しく解説されているので、ついつい読み耽ってしまう。鬼灯のあんな使われ方や、突撃一番に精液溜まりがない理由とか、誰得な情報がてんこ盛りだ。

少しネタバレになるが、入れ墨の件で「犯人」だけはわかった。それでも最後まで、最後の最後まで読むと背筋が冷たいものが走った。やはり三津田信三の作品は最後まで気を抜けない。



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by non-grata | 2013-02-15 16:01 | 読書

主人公は娘にあらず|『首斬り人の娘』感想

d0252390_14302274.jpg無性にポケミスを読みたくなって、書棚で目についた一番怪しげなタイトルを選ぶ。

舞台は17世紀のドイツ。事故死した子どもの肩に魔女を示す「♀」マークがついており、またその子どもが産婆の家に出入りしていたことから、産婆は魔女だと捕縛される。取り調べ、と言っても当時は拷問して無理矢理口を割らせるわけだが、その役目を仰せつかるのは死刑執行人。首斬り。しかし彼はそんなことはあり得ないと確信。70年前にこの町で行われた魔女裁判の再現は御免と真相究明に乗り出すのだった。

魔女だの悪魔だのが徘徊すると大衆が信じる時代にあって、実践的な医学を学んでいる首斬り人とその娘、そして医者の息子だけが科学的に事件を調べられるのが面白い。謎解きは、いざ明かされると「なあんだ」といささか拍子抜けか。それでも里子たちの隠れ家に時代性を感じたりと、面白い読み物であった。

で、タイトルは「〜娘」なのだが、主人公は処刑人。娘のほうも魅力がないわけじゃないんだけど、ヒロインという器ではなく、というよりは親父さんの存在感があり過ぎて霞んでしまうというか。ドイツでは続編も既刊なので、後のエピソードでは娘さんが活躍するのかもしれないが。

作者のオリヴァー・ペチュは祖先に処刑人を持ち、それが本作執筆の動機になったという。文章の端々から感じられるリアリティはそのためか!?



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by non-grata | 2013-02-14 14:51 | 読書

結論「メディアリテラシーを持て」|『ネット右翼の矛盾』

d0252390_10593753.jpg本を読めるから、という理由で通勤に電車を使っていて、読書時間の99%が電車の中。しかし電車の中ではスマホ派が大半を占める。じろじろ見るわけにもいかないので正確なところはわからないが、相変わらずゲームをしている人が多いが、最近は「まとめサイト」をまとめたアプリを使っている人が目につくようになった。印象論でしかないから実態はわからないけれど。

ニュースのトレンドを追っかけたり、暇つぶしに便利なので自分もよく使うけれど、まとめ方一つでいかようにも総意を特定の方向に向けられるので、書いてあることを鵜呑みにはできない。まして、タイトルだけ読んでわかった気になっていると危険ですらある。

適度に誇張や省略がなされていて、歯切れがいいし、読みたいことが都合良く書かれていたりするので余計にたちが悪い。知らず、自分の中で特定の考え方が醸成されて、それがぼやっとした民意になったりすると、ネット発の怪しげなムーブメントへと発展する。例えばネット右翼。「ルサンチマン気味の韓国嫌いがあって、そこから嫌いな韓国による不当な攻撃を受けた日本人、そして不遇な自分という論法で、不利益を蒙って現在望ましい環境にいない自分を受け入れるプロセス」を助長する存在として、嫌韓まとめサイトなり、Twitterなりがあげられるだろう。

本書は、ネット右翼と呼ばれる人々の生態や思想について取り上げている。興味深いのは第2章「弱者のツール」(山本一郎・著)にある具体的な数字。ネット右翼は最大で120万人規模、アクティブにネット上で活動しているのが10万人。「兵庫、岡山、広島あたりがネット右翼発祥の地と思われるくらい、偏在してい」るのだという。

今は知らないが、35年くらい前の広島市内では、漠然とした韓国人に対する差別、逆差別があったのを記憶している。実体験はないが、『はだしのゲン』で描かれたようなイメージか……あるいはそのイメージが現実にあったものと勘違いしているだけか。ともあれ、平和教育、同和教育に熱心な土地柄だったので、その反動がネット右翼につながったのかと推測もできる。

ネット右翼が問題なのは、誤解に基づく過てる衝動によって、その誤解を拡散したり、実力行使に出たりすること。そんな言説に振り回されないようにするためには、各人がメディアリテラシーを持ちましょう、という結論になる。

「人は溢れる情報を手に入れることができるようになった。それは確かに情報革命のお陰だ。ところが、その利便性が高まるが故に、知りたければほぼ無尽蔵に情報を得られるようになる一方、人が処理できる情報量は、人類が生物として誕生してからほとんど変わっていない。新しい情報を仕入れ、考え方を身につけること、それはすなわち教育そのものである」

「情報社会が進展するほどに実は簡単に情報の海の中で孤立し、同好の士と共にタコツボ化していく現象そのものであって、他人に対する理解や関心、もっと広くは異なる世代との共有体験の喪失でもある。それは、昔の人たちが言っていた「常識」や「教養」が失われている世界なのだ」

と、ネット右翼本ではあるが、それ以外の人々を含むネット民(笑)がいかにインターネットを利用するのかを考えさせる一冊である。



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by non-grata | 2013-02-13 11:57 | 読書

スクリューフレーションなう|『日本防衛論』感想

d0252390_16465458.jpg帯に踊る「欧米没落!日中激突!」の惹句が何とも勇ましいが、内容はもう少し控えめ。2012年末の時点で日本は六つのグローバル・リスクを抱えているが政治家も役人もそのことに気づいていない……ということでその六つのリスクを解説し、ではこのリスクを回避するために日本はどうしなければならないか? を著者なりに分析している。六つのリスクとは、
●ユーロ危機
●アメリカの景気後退
●新興国の構造不況
●地政学的変動
●気候変動
●地殻変動
である。
言われてみると「なるほど」というものばかりだ。

ギリシアもスペインも統一通貨ユーロのために為替切り下げによる輸出拡大を行えない。アメリカの景気後退が長引くと、回復のために攻撃的な性格を帯び、国際経済の不安定要因になりかねない。リーマンショック以降、新興国の成長は鈍化。これに政情不安が重なると、地政学的変動につながる。その地政学的変動では、既にアメリカの影響力が低下した中東で混乱が生じている(シリア内戦)。この混乱がさらに拡大すると、日本のエネルギー政策に深刻な影響がもたらされる。気候変動は食糧問題に直結するし、地殻変動は言わずもがな。暗い話題ばっかりや!!

と書きつつ、さらに暗い話題。物価は上昇するのに給与据え置きのスタグフレーションが警戒されているが、経済規模の拡大&賃金低下&食糧・エネルギー価格の高騰によって中産階級が没落する「スクリューフレーション」が既に日本で発生している。スクリューフレーションは貧富の格差を拡大する。中間層の購買力が低下しているところに金融緩和を行っても、余剰資金は市場に流れ出すだけで食糧やエネルギーの価格を押し上げる。金融緩和で円安になれば輸出企業はウハウハ……にはならない。世界的な不況のため、輸出量が極端に増えることはない。それよりも円安によって食糧・エネルギー価格がさらに高くなり、低所得者層を直撃することのほうが大きい。

エネルギー問題に関して、著者は原発再稼働推進派だ。見かけのコスト・パフォーマンスは原発のほうが高いに決まっているが、事故を起こした時と放射性廃棄物を勘案するとどうか? 前者に関しては、福島は駄目でも女川は大丈夫だったのだから、ちゃんと備えれば深刻な事故に発展しないはず。後者についてはスウェーデンの例をあげ、民主手続きを経て対応することが可能であると説く。犠牲社会を容認しない日本ではスウェーデン式にはいかないかもしれない。

まずはデフレ克服、次に内需拡大によって輸入を増やしてアジアにおける日本のプレゼンスを増して、中国にうるさいことを言わせないようにするってことなんでしょうかねぇ。
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by non-grata | 2013-02-04 18:05 | 読書

ビジュアルはC・イーストウッドで|『スカウト・デイズ』感想

d0252390_17215278.jpg野球とミステリ。どちらも好物なので、その二つが一緒になったものは……胸焼けして食べられないんじゃないかと、手を出していなかったのだが、手軽に読める本をと書店で手に取った『スカウト・デイズ』、読み始めたら止まらない面白さだった。

ドラフトのたびに「堂神マジック」と呼ばれる奇策を打つ伝説的スカウトの堂神。その「堂神マジック」でまさかのドラフト3位で指名された久米だが、故障のため、活躍する間もなく戦力外通告を言い渡される。久米は堂神にスカウトとして拾われる。

本作はいろんな角度で楽しめる。新入りスカウトの成長物語。久米は、堂神から厳しく指導を受けつつも、自分なりにスカウトのあるべき姿を模索する。それからプロ野球裏話。もちろん具体的な話は書かれていないが、普段日の当たらないプロ野球のスカウトがどんなことをしてているのか、またしてきたのか、それとなく教えてくれる。さすがは元スポーツ新聞記者といったところか。

堂神には、スカウト・チーム丸ごと別の球団へ移籍しようとした節があった。また、「堂神一家」の一人が自殺している。堂神にしか知り得ない情報網もある。これらの謎が示すものは──というのがミステリの部分。

スカウトを題材にした物語としては、映画『人生の特等席』が記憶に新しい。データ至上主義で安い選手を見つけてくる『マネー・ボール』へのアンチテーゼになっているが、『スカウト・デイズ』に出てくるスカウトもクリント・イーストウッドに近い。堂神のイメージとぴったり重なるのが面白い。「何でもかんでもパソコンに頼ろうとするな、スカウトは足で稼げ、自分の目で見て判断しろ」である。そう言えば同作でも新入りスカウトは老スカウトが見つけ出した元投手だった。

好きなもの二つを無理矢理くっつけられたのなら困るが、それぞれを素材として一つのものにまとめ上げてくれるなら、それは新たな好物になる。しばらく本城雅人の文庫本を買い漁ろう。



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by non-grata | 2013-02-02 17:46 | 読書

早回しは残念|『デッド寿司』感想

d0252390_1649638.jpgコンドームやトマトが人を殺すなら、寿司が人を食ったっていいじゃない! というB級、いやC級テイスト全開の作品。井口昇監督作品としては、『片腕マシンガール』以来の鑑賞となった。『片腕〜』はいい映画ですよ。

父親のような寿司職人になりたいと、武田梨奈は修業に勤しむが、女であるが故に魚の生臭さを助長することに悩んでいた。女臭さをなくすために武道にも取り組むがうまくいかず、家を飛び出してしまう。彼女が行き着いたのは場末の旅館。そこで仲居として働くことになる。しかしその旅館の敷地には、慰安旅行に来た製薬会社の社長を抹殺すべく、復讐を企てるマッド・サイエンティストが潜んでいたのである。

社長に怨みを抱く科学者(ネタバレすると元社員ですな)が開発したのが蘇生薬。これが『死霊のしたたり』を思わせる蛍光色の薬で、甦ったものは凶暴になるところも同じ。だから寿司も凶暴化して人を襲うのだ──寿司のまま甦るのはおかしいとか、シャリはどうなっているとか、突っ込むのは野暮というもの。寿司が交尾して増殖する世界なのだ。

全編を貫くチープ感に脱力した笑いしか出ないが(だか、それがいい)、元板前で今は旅館の雑用係を務める松崎しげるがいい味を出している。そして黒い。

もちろん、武田梨奈のアクションが素晴らしいのは言うまでもなく、決めポーズも格好いい。序盤で見せる「スーパー・パース」と、階段でのマグロ男との斧のやり取りがお気に入り。ただ、早回しの多用は残念。『ハイキック・ガール』『KGカラテガール』と、本物のアクションを楽しませてくれただけに、ここは物足りないところだ。

女体盛りや日本独特のディープなキスなど、本作を観た外国人に過てる日本文化を植え付けようとする件には思わず失笑。そもそも生の魚や卵を食べるというのは相当にユニークな文化なのだから、日本人の男女が親密になると、卵の黄身を口移しでラリーするのが伝統だと言っても、さもありなんと思われるかもしれない。



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by non-grata | 2013-02-02 17:19 | 映画

今年は何でも五つ星
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