おっさんノングラータ

2013年 09月 05日 ( 1 )




『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン

d0252390_15394445.jpg湿地』を読んだのはかれこれ一年前か。うーん、時間の流れの速いこと。以下、ネタバレありです。

アイスランドの警官もの。子どもが小さい頃に家を飛び出してしまい、成長した子どもたちはそれぞれ問題を抱えていて(男の子はアル中、女の子はヤク中)、何で俺はあの時、家を出て行ってしまったんだろう、妻との生活を耐えていたらどうなっていただろうと、何かあると過去に苛まれる主人公エーレンデュルの私生活と、郊外の開発地で人骨が発見された事件の捜査、そして過去に起こったDVという三つのエピソードが展開されます。前作も暗かったけれど、今回はそれに輪をかけて暗い。

確か前作で和解したはずの娘が、またもエーレンデュルと仲違いして堂々のヤク中復帰。しかもお腹の子(女の子)は死に、娘も意識不明の重体。奇跡でも起こらない限り回復は望めない、効果あるかどうかわからないけれど話しかけて欲しいと医師に言われ、時間を見つけては病室に足を運び、話をするエーレンデュル。それで出て行った時の話、そして自分の身の上話をするのだけれど、それがまた暗い。

もちろん、過去のDV話も暗い。読んでいて居たたまれなくなるほど。アイスランドに特定のイメージは持っていなかったけれど、国土が狭くて人口も少ないので、シンガポールのように女性の社会進出が進んでその地位も高いのかと思ったら、そんなことはないんですね。話の中心は過去のDVですが、現代のDVにも触れられており、エーレンデュルも魂を傷つけられるという意味でDVの被害者なのかもしれない。女性捜査官がそんなに多くないと言う同僚エリンボルクに対して、「そりゃあかん」と登場人物に言わせていることからも、女性の社会進出はそれほど進んでいないのかも……うーん、2009年の調査では1位なんですけどね(日本は75位)。

その調査結果はさておき、本作では不幸な女性ばかり登場します。エリンボルクとベルクソラは別として、自分が誰にも愛されていないと感じ、すぐに自暴自棄となるエーレンデュルの娘、叔父にレイプされて身ごもり、婚約者との結婚を諦めざるを得なくなったソルヴェイグ、今と過去のDVに遭っている母親とその娘、過去の娘は医療ミスで障害を負ってしまう。アイスランドに駐屯したアメリカ兵との間にできた女の子もそうか。第二次世界大戦から現在まで、いやいや1910年のハレー彗星大接近から現在まで、女性が受けてきた苦痛を通じてアイスランドの風俗というか社会を、少しだけ垣間見ることができます。

そんな感じで今作は完全に男性が悪役。DV夫は、恐らく暴力を振るわねばならない自分、妻にしか偉そうにできない自分のことがわかっており、ほとほと嫌でエンド・マークを誰かに出してもらいたかったのでしょうし──それがいまわの言葉なんでしょう、エーレンデュルも娘とのことは忍耐が足らなかったと言えます。恋人との結婚に踏み切れないシグルデュル=オーリも悪役か。

鬱々とした話だし、男性だけに引け目を感じること多々、なんですが、現代と過去を行ったり来たりしつつ物語が核心に迫っていくので、ついつい読み進んでしまいます。

絶望の中にも希望が見出される幕引き。障害を負っても、いつかそれを克服できると他の子と同じように接した母親と、届かないと知りつつも娘に語りかけ続けたエーレンデュルの姿が重なり、奇跡が起こるわけですよ。

次作の翻訳が待ち遠しいんですが、また来年でしょうか。



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by non-grata | 2013-09-05 16:36 | 読書

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