おっさんノングラータ

2013年 06月 27日 ( 2 )




『犬の伊勢参り』感想|★★犬だけじゃなく牛も豚も(猫は?)

d0252390_10133422.jpg「犬の伊勢参り」と言っても、人が犬を連れて伊勢参りをするのではなく、犬が単独で伊勢参りをしたという話。嘘っぽいけれど記録もいくつか残されているので本当のことなんでしょう。

いきなり犬が伊勢参りを始めたというのではなく、その背景にお蔭参りがあった。数百万人が、全国から突如、伊勢参りをしたという社会現象で、奉公人が仕事中、あるいは子どもたちが遊んでいる最中にふっと姿を消したことから、「抜け参り」とも呼ばれる。雇っているほうとしては迷惑この上なく、奉公人が戻ってきたら暇を出されそうなものだが、「伊勢参りなら仕方がないか」という風潮があったようだ。伊勢へ行くのを促すお札が空から降ってきたりするものだから(これも仕掛けがあったようで)、お蔭参りする人を誰も止められない。

さて江戸時代、犬は特定の個人ではなく地域に飼われていた。いつも遊んでくれていた子どもたちが抜け参りをして突如いなくなる。その子どもたちを追いかけて犬が伊勢を目指し、伊勢参りする人々の誤解もあって、「犬の伊勢参り」第1号が生まれたのではないかと想像される。

その後、事情があって伊勢参りに行けない人が、代わりに犬を送り出すようになる。首に銭を通した紐をかけており、宿屋が世話すると、そこから幾ばくかの代金が引かれる。が、犬の伊勢参り成功を願う人々が寄付することもあったので、帰ってくる頃には出た時よりも多くの銭をぶら下げていたという。もちろん首には、どこの犬なのかを記した札がつけられており、無事に帰れるよう多くの人が手を貸したに違いない。中には飼い主が知らない間に伊勢参りをした犬もいた(山形)が、最長記録は青森県からだったという。

牛が伊勢参りしたとの記録も残されている。広島では犬より豚がポピュラーな動物で、豚に伊勢参りを託した者もいたようだ。

明治以降、「犬の伊勢参り」は途絶える。犬の飼い方も西洋化され、地域ではなく特定個人で飼われるようになった。不特定の飼い主に飼われていた「地域犬」は野犬として処分されるようになったからである。

ということで、今年は式年遷宮の年だが、残念ながら犬が伊勢参りをすることはないだろう。本書を読んで、愛犬を伊勢参りさせたいと思う人はいるかもしれないけれど。



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by non-grata | 2013-06-27 10:42 | 読書

『巨鯨の海』感想|★★★また太地町に行きたくなる

d0252390_905693.jpgこれまでに2回、太地町を訪れたことがあって、1回目は純粋に観光。くじらの博物館に行ったり、イルカショーを見たり。2回目は無性に鯨が食べたくなり、くじら祭へ。国際司法裁判所の判断次第では、今年のくじら祭は中止になるんですかね。『巨鯨の海』を読み終えたので、もう一度くじらの博物館へ行って、夷様をいただこうと思ったのだけど。

『巨鯨の海』は太地町を舞台にした短編小説集で、太地町に生きる人々が主人公。古式漁法での鯨魚取りは死と隣り合わせだが、鯨を仕留めれば浜が潤う。いたずらに「狩る」のではなく、人間も、鯨も、生きるために戦っていたのだということを教えてくれる。

何しろ文章が巧いので、捕鯨シーンは迫力満点。血潮を浴びたり、浜が血で染まったりといった光景が目に浮かび、血と潮の混じった匂いまで漂ってくるが、少しも嫌悪を感じない。それどころか、自分が太地町の住人の一人になったような錯覚に陥る。ああ、でも生の皮とか肉は食べられそうにない。

どれも面白い話だが、特に印象に残ったのは、ニートが本気を出す話。捕鯨に関する仕事ができないなら、太地町では丁稚になるか(計算ができないと駄目)坊主になるかしかないが(読み書きできないと駄目)、どちらも苦手な主人公がついに家から追い出されそうになる。ニートが下した決断とは? 竜涎香の話も切ない。鯨の腹の白さが持つ色っぽさと、女性の下腹を重ねる話は、想像できるだけにちょっと恐い。明治になってからの話は、考えさせられるものがある。

個々の話につながりはないが時系列で並んでおり、江戸時代から明治初期にかけての太地町の捕鯨の歴史を概観できる。1854年に日米修好通商条約が締結されて以来、鯨が捕れなくなり、明治には古式漁法による捕鯨が幕を下ろすわけだが、つくづく日本の捕鯨は、外国の都合に翻弄されるのだなあと嘆息する。



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by non-grata | 2013-06-27 09:53 | 読書

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