おっさんノングラータ

(B09)選んだのは私たち|『帰ってきたヒトラー』感想(★★★★★)

d0252390_15403842.jpg「面白い」とは聞いていたものの、これほどとは。

1945年、ソ連軍がベルリンに侵攻する最中、総統地下壕で拳銃自殺したアドルフ・ヒトラーが何故か2011年8月に復活する。その間の記憶はなし。ズドン、目が覚めたら現代の公園に転がっていたという次第。しかも服が何だかガソリン臭い(自殺後、遺体は既に貴重品となっていたガソリンをかけて燃やされたのです)。キオスクの店主に助けられ、テレビ番組のディレクターに見初められてコメディアンとしてテレビ出演。そしてあれよあれよと、まさに「電撃的」に人々の耳目を集めるようになる。

星一つ:シミュレーション小説として。アドルフ・ヒトラーが現代に甦り、今のドイツを見たらどう感じるか。政策をどう評価するか。政治家をどう思うか。ヒトラーは自分の番組で言いたい放題を言いますが、その言葉にどこか共感するものを感じます。上巻までは抱腹絶倒、ところが下巻までくると、「いや確かに言っていることは正しい(こともある)けれど、このままヒトラーに傾倒してエエんかいな」と不安になってくること請け合いです。原発の即時廃止、再生可能エネルギー支持の緑の党と意気投合するところなんか、笑っていいんだか何だかです。けれど、100年先200年先のドイツの在り方を考えているのは、ヒトラーくらいしかいないのも事実(何せ千年帝国を築こうとしたわけだし)。

星一つ:訳文の素晴らしさに。もちろん原文もすごいのだろうけれど、「ヒトラーなら言う言う」という口調がお見事。映画化されるそうですが、是非字幕も訳者である森内薫氏にお願いしたいものです。生憎ドイツ語は全くわかりませんが、文章を読みつつ、脳内では有名なヒトラーの演説(っぽいニセドイツ語)が流れていました。

星一つ:これは想像に頼るしかないのですが、第二次大戦中にドイツがやった悪いことは全部ヒトラーとナチスのせいにしたという負い目が、戦後ドイツにあるんじゃないでしょうか。実際のところ、ヒトラーが選挙で選ばれたにもかかわらず。「国家社会主義とは畢竟、明るい、人生を肯定するような運動なのだから」という言葉に賛同した人もいるでしょう。「不当に私腹を肥やしたことも、自身の利益だけのために何かをしたことも」ない党首を信用した人もいるでしょう。それがニュルンベルク裁判の結果、悪いのはヒトラーとナチス、ドイツ国民もある種の被害者、という線引きがなされた。線引きがなされたからこそ、戦後の政策が明確で健全な(少なくとも隣国と平和な関係を築いているように見える)ものになったのでしょう。が、その負い目を知らないYouTube世代は、ヒトラーが出演するテレビ番組の動画を見て無邪気に信奉したりできるのです。となるとやはり、ヒトラーの主張には何某かの真理が含まれていないかと、大いに考えさせられます。

星一つ:その思いを補強してくれるのが、ドイツ現政権(メルケル政権)への批判。生憎ドイツの政治情勢にも明るくないが、日本同様様々な問題を抱えているのでしょう。ヒトラーによる次のような政治家批判は万国共通のはずです。
「たとえばリベラル派に属する例のアジア顔の──ヴェトナム出身だという──大臣だ。医者を志しながらその修業を中断して政界に入り、政治家としてのキャリアに心血を注ぎはじめたこの若造は、いったいなぜそんなことをしたのか? まず医師の修業をし、医師として十年か二十年、週に五十時間か六十時間も働いて厳しい現実を目の当たりにして、そうして自分なりの世界観を築いてからなら、良心の声に従って意義深い政治の仕事を始めることもできるだろう」

これに対してヒトラーは、入院した病院で医者にインタビューを行い、ドイツの医療が直面している危機的状況に胸を痛め、解決策を探さなければいけないと考えます。実に真摯なのです。

星一つ:というように、アドルフ・ヒトラーは実に興味深い人物として描かれています。もっと言えば、好ましい人物なのです。ドイツは第一次世界大戦に敗れて国内はがたがた、戦後処理で領土を奪われ莫大な賠償金まで請求されました。ドイツ人が誇りを失いかけていたところ、ヒトラーは夢を見させてくれました。そりゃあ「国家社会主義ドイツ労働者党」は政権取るわー。

チャーチルが言うように、民主主義というのは最悪ですが、これまで行われてきた政治形態に比べればましです。となると、政治家を選ぶのは選挙しかないわけで、選挙民の義務としては、選んだ後も厳しく監視するしかないということでしょうか。



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by non-grata | 2014-02-28 16:25 | 読書

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