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おっさんノングラータ

(B03)赤ヘル1975/重松清(★★★★★)

(B03)赤ヘル1975/重松清(★★★★★)_d0252390_848863.jpg1975年と言えば来年で40周年。本作の映像化待ったなし! 映画でもかまへんし、NHK広島が頑張ってドラマ化してくれてもエエんやで。

広島東洋カープがリーグ初優勝した1975年を節目に広島ではいろんなことが変化しました。実際には少しずつ変質していたことも、歴史的イベントが変化を象徴づけるというやつです。1975年は原爆投下から30年、やはり節目であります。自分は小学2年生。仲の良かった友だちが小学1年生の終わりに、当時開通したばかりの新幹線で岡山に引っ越し、それが原因でやさぐれてしまって、小学2年生にして「一人学級崩壊」を起こしていました。いや本当に、何が気に入らないのか国語や算数の時間に机の上で粘土遊びをしてみたり、注意されたら教室を飛び出したり。カープが初優勝してからそんな悪癖もぱたりと終息し、以来(しばらくは)模範的な小学生になったんだから、やっぱりカープってすごいのです。

前年最下位に沈み、日本プロ野球界初の外国人監督をいただいたカープが開幕ダッシュに失敗した5月、ヤスが通う相生中学校に東京から一人の転校生がやってくるところから物語は始まります。変な意味でなく、ボーイ・ミーツ・ボーイの物語であります。典型的な広島の野球少年であり、「田舎の子」で不器用なヤスですが、友人のユキオとともに何かと転校生マナブのことを気にかけます。ここでまず落涙して星一つ

マナブは事情があって転校のベテランで、新しいコミュニティに馴染むためには何が必要か──人間観察を持ってその輪にとけ込む術を身につけています。が、ここは広島。世界で最初に原爆が投下された町。もちろん、戦争中に空襲で壊滅した都市は他にもありますが、広島には特殊な事情があります。放射線、黒い雨、入市被爆……被害規模で言えば東京大空襲のほうが大きかったかもしれません。後方地域に対する無差別戦略爆撃を、百歩譲って敵国の士気を落とすためのテラー・ボミング・タクテクスと見なすことはできても、広島・長崎に対する原爆投下は実験的、政治的含みが大きすぎて外道以外の何ものでもありません。とまあ、そんなわけでなまじ観察眼が良いために、マナブは広島の特殊性を目の当たりにすることになるのです。マナブの視線で描かれる、被爆30年のヒロシマに星一つ

本作には、自称「平和団体」同士の対立や宗教的なあれやこれやの問題にも逃げずに向き合っております。もちろんサイド・ストーリーであるし、広島生まれの人以外には理解されにくい問題ですが、ここを押さえてくれたことに星一つ。千羽鶴折らされたわー。

ヤス、ユキオ、マナブ三人の物語は、カープの成績同様、一進一退を続けます。カープが負ければ友情に暗雲が垂れ込めたり、大事な試合に勝てば関係が深まったり。高橋慶彦選手のプレーで主人公の人生が流転する『走れ!タカハシ』(村上龍)が想起されます。

ここからネタバレあり。注意。

マナブの父親はマルチ商法をはじめとして怪しい商売に手を出し、破産する(弱みにつけ込んで元義母の財産にすがる)、あるいは周囲に迷惑をかけて夜逃げします。マナブが転校のベテランになった理由もそれ。勝ち馬に乗りたがる父親ですが、弱小球団だったカープが、地道な努力を続け、シーズン半ばで指揮官の座を降りたジョー・ルーツの言葉通り「地域に貢献する」姿勢を忘れずに初優勝を遂げたことに、一瞬、気持ちが揺らいでいます。結局、優勝パレードの途中でマナブたちは広島を去り、その後も消息は知れません。父親に対しては安易な批判もあるでしょうが、彼は息子に対して戦争中のことを語っていないのです。あるいは、空襲によって一夜にして財産を、家族を、全て亡くしたのかもしれません。その記憶が一発逆転のビジネスへと、上辺だけでも彼を必要としてくれる詐欺師へと駆り立てている可能性もあります。

終戦から1975年までのほうが、1975年より今よりも近いということを思い出させてくれます。今度、広島に帰ったら原爆資料館に再訪しよう。という思いにしてくれたことに星一つ。ヤスの母親の平和運動に共感します。

で、カタカナで書かれていたからすっかり騙されたわけですが、優勝の年、後の投手王国・広島を支えたエース、北別府学投手が都城農業高校から入団しています。北別府と言えば広島一筋で200勝を達成した大エースですよ。同じ名前を持つマナブがその後、広島に戻ったかどうかはわかりませんが、1975年の広島での体験が彼の人生を良い方向に変えたことは間違いないでしょう。当時、広島に住んでいた人はきっとそうだし、住んでいなかった人も本作を読むときっとそうなる。そんな思いにさせてくれるラストに星一つ






by non-grata | 2014-01-28 10:06 | 読書

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