おっさんノングラータ

二人の『海賊女王』

d0252390_7573772.jpg書店でサイン本が売られていたのでとりあえず上巻を購入。面白かったので下巻を購入しにいったら、サイン本は売り切れだった。上下巻ともサイン本を集めようとしていた人には悪いことをしました。大量のサイン本もしかり、上下巻のボリュームで16世紀のイングランドとアイルランドの二人の「海賊女王」の生涯を描く筆力しかり、皆川博子女史は化け物か! いやいや老いてますますお盛んで何よりです。

海賊女王。一人は私略船免状を発布し、堂々とスペインの商船を海賊に襲わせるエリザベス女王。もう一人はアイルランド北西部の氏族であるオマリーの族長ドゥダラの娘、グラニュエル。ただし、エリザベスは自ら手を下すことがないのに対し、グラニュエルは最後まで最前線で戦う。故に、エリザベスの絶頂期がイギリス海軍がスペインのアルマダを「破ってくれた」海戦だったが、グラニュエルのそれは15歳で嫁入りした後、自らの手で水軍をつくり上げた時にあった。

恥ずかしながらグラニュエルの存在を知らなかったのですが、こちらに簡潔にまとめられていました。続きはこちら。小説とは細部で異なりますが、小説は小説、より面白くなっていればそれでいいのです。

物語は、ペスト禍に苦しめられるロンドンにおける、イギリス政界の薄暗い駆け引きで幕開けし、そこにアイルランドの女海賊から女王に謁見賜りたいとの書状が届く。枢密院の顧問官がその素性を探るべく、部下をダブリンに派遣し、女海賊グラニュエルの物語が始まる。10歳で、17歳の従者アランを得るところが振り出し。ゲールの誇りを持ち、イングランドへの敵愾心を燃やす彼女がどうしてエリザベスに嘆願書を送ったのか? アイルランドとイングランドの戦いが継続する中で、次第にその謎が明かされていくわけです。

皆川女史、やはり自ら手のを血で染めても責任を全うするグラニュエルのほうに思い入れがあるようで、老いに抗おうとするエリザベスが(憎めないけれど)滑稽に描かれております。しかし、二人の女王に共通する不幸は、その地位を奪う、または利用しようとする男たちがいる一方で、その男たちが権力争いに明け暮れ、ともすれば大義がどこかに忘れ去られるということ。いや、イングランドに至っては大義すらない。ゲールにはあるが、ところが時にグラニュエルはリーダーであるより母親であることを優先して、大義が置き去りにされてしまうのです。困ったものだ。

ということで、本作のもう一つのテーマは「家族」。15歳で結婚し、種違いの子3人をもうけたグラニュエルをはじめ、従者アランもずいぶん後になって──大失恋をした後──結婚し、家族を持ちます。イングランド側にも家族は登場しますが、ゲールほど濃いつながりはありません。親子ですら信頼できない関係。ところがそのイングランドが世襲制をとっているのに対し、ゲールの法制度上はそうはならないところが面白い。

で、家族と言っても血がつながっているかどうかは関係なく、運命共同体が一つの家族であり、クランになる。クランがすべきことは、その存続を第一に考え、年寄りは若者のために為すべきことをする。クランの存亡がかかっている時は、若者も一緒に戦うが、そうではない時、例えば難破したスペイン船の乗り組を助けるために嵐の海に出ていく時は年寄りが率先し、若者の命をそんなことで危険に晒したりはしないのだ。外交上、やむを得ず参加しなければならない戦いにしてもそう。年寄りのために若者が犠牲になるなんてそんな馬鹿な話はなく、若者のための道を拓いてやるのが年寄りの役目なのだという、主張がくみ取れます。



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by non-grata | 2013-09-21 08:36 | 読書

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