おっさんノングラータ

『歴史探偵近代史をゆく』感想

d0252390_95428.jpgちょっと古い話になりますが、丸谷才一氏が亡くなられて、あの洒脱なエッセイがもう読めないかと思うと非常に残念。思えば半藤一利氏の『漱石先生ぞな、もし』を知ったのも、エッセイで取り上げられていたからだった。

本書は明治から昭和にかけての歴史の裏話を、「歴史探偵」が軽やかに語ってくれる。面白かったエピソードを紹介すると、

「奏上書から消えた二十字」
日露戦争が終わった後、乃木大将は明治天皇に奏上書を読み上げ、泣き崩れたのは有名な話。映画『二百三高地』で最も印象に残っているシーンだ。実はその草稿では、二百三高地戦の後の奉天会戦で兵力、弾薬が不足していた旨を語る二十字があったのだが、削られたというのである。軍が、明治天皇に対しても実状を隠蔽しようとしたと歴史探偵は推理するが、日露戦争以後の体たらくを思えばさもありなんである。

「三つの言葉」
『文藝春秋』昭和12年3月号の企画で、「世相を象徴する三つの言葉」というアンケートが面白い。二・二六事件の後、検閲が厳しさを増している中の企画である。
「柳瀬正夢 一、○○○。二、△△△。三、×××。」

「裏返しの東京裁判」
昭和20年6月、といえば敗戦の2カ月前で、主要都市は空襲によって破壊され、戦争継続が事実上、不可能な時期に電通が『宣伝』という小冊子を発行した。その中に「アメリカ処分案」なる一文が掲載されている。書いたのは戦後は政治家に転身した作家である。誰だろう。ともあれ、氏は現実で勝ち目がないから妄想で憂さを晴らす。処分案とはつまり、「裏返しの東京裁判」ということになる。ちょっと長いけど、面白いので引用しますよ。

第一。アメリカが英国から独立した時の、十三州の昔に返すこと。
第二。そこでその他の諸州はメキシコから掠奪したもの(名目は買ったとなっている)はメキシコに返し、ロシアから買ったアラスカはソ連に返す。
第三。ただしカリフォルニア州だけは日本の管理下におくこと。そうでないと、彼がまた太平洋に野心を持つからである。
第四。ハワイはこれまた日本の管理下におく。フィリピンは独立しているから、これは問題ない。
第五。立国の方針はモンロー主義を確守させる。モンロー主義に忠実でなくて、帝国主義的野望を抱くから、それが、世界を脅威させているのだ。

この先、個人的な恨み節も聞こえてくるのが面白い。

第七。アメリカの爆撃で日本が蒙った損害は(略)物資で賠償させる。(略)殊に海老を、沢山日本人に食わせて、減じた栄養の回復をはからせる。
第八。それから木材。(略)東京の家屋を、早く建てなくてはならない。
第九。(略)特にルメイには死刑を宣告す。

探偵も指摘しているけれど、戦略爆撃で日本人を皆殺しにしようと意気込んだルメイに、戦後、勲章が贈られている。

第十。日本を毒したのはハリウッドの映画だから、あの興業(ママ)の停止を命じ、その男女俳優は解放させる。

戦後になって、さらに毒された。

最後に、探偵が「異存はない」と書いている2項を紹介する。

第十四。人種平等の建前から、国内の黒人の待遇を一変せしむ。たとえば黒人は代議士でも一等車に乗れない州がある。そんな不都合な差別待遇のないようにさせる。
第十五。その他、アメリカの膨大な富を、人類の堕落のために使わないで、人類の福祉のために使はせる。

引用がすっかり長くなってしまったので、以下、簡単に。

パネー号事件における斉藤大使、山本(五十六)海軍次官の対応がまことにあっぱれだったこと。さらに日本国民は弔慰金を集め、子どもたちがアメリカ大使館にお詫びの手紙を送った。かくも立派な国民がいたのに、どうして不幸な戦争に突入してしまったのか、残念でならない。

●有名な「贅沢は敵だ」は、ロシア共産党が街頭宣伝に用いたと、永井荷風が『断腸亭日記』に書いているそうだけど、本当?

●阿部定事件を報じる際、はじめて「下腹部」という表現が新聞で使われた。新語なのだそうだ。

●毎日毎日、決められた通りの日課をこなす(だけの)マッカーサーに、「このままでは死にそうだ」と側近が愚痴を漏らす。それに対してマッカーサーは、
「人間と生まれて、自分に与えられた仕事をしながら死ねるとは、これほどの幸せがあるだろうか」
と返したそうだ。

この挿話を読んで、自分に与えられた仕事とは何ぞやと、頭を捻ってしまった。



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by non-grata | 2013-04-16 11:08 | 読書

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