おっさんノングラータ

蔵書は人を表す|『ヒトラーの秘密図書館』感想

d0252390_17392876.jpg『ヒトラーの秘密図書館』というタイトル、「その一冊が、男と欧州の運命を決めた。」という惹句に衝動買いしてしまった。が、原題は『Hitler's Private Library』であって、他人に見られて困る蔵書を隠していた特別な図書館があったわけではなく、「一冊」で一人の人間が形成されたわけでもない。そりゃそうだ。

アドルフ・ヒトラーは学歴がないことのコンプレックスからか、とにかく本を読んだそうだ。一晩に一冊は読む。蔵書の数は1万6000冊──その大半は権力の座についた後、献本されたものだそうで、全てに目を通したわけではないけれど、たいへんな読書家であったことには違いがない。本書は、ヒトラーが第一次世界大戦に従軍した時から戦後、権力を掌握して総統となり、第二次世界大戦が始まり、ドイツ第三帝国が破滅するまでの足取りを追いつつ、その時系列に沿ってヒトラーが読んだ本を紹介する。1万6000冊の殆どは散逸してしまったが、戦利品として持ち出されたものもあり、1300冊ほどはアメリカに現存するそうだ。

取り上げられているのは10冊。
『ベルリン』マックス・オスボルン
『戯曲ペール・ギュント』ディートリヒ・エッカート
『我が闘争』第三巻アドルフ・ヒトラー
『偉大な人種の消滅』マディソン・グラント
『ドイツ論』ポール・ド・ラガルド
『国家社会主義の基礎』アイス・フーダル
『世界の法則』マクシミリアン・リーデル
『シュリーフェン』フーゴ・ロクス
『大陸の戦争におけるアメリカ』スヴェン・ヘディン
『フリードリヒ大王』トマス・カーライル

読書によって自分の見識を広げることができるが、ヒトラーは自分の考え方を補強するために行った。主義主張という「鋳型」の中に、都合の良い考え方を放り込むために本を選ぶ。その顕著な例が『偉大な人種の消滅』だ。1916年に英語の原書初版が出版されたこの書は、アメリカの移民政策を制限するために書かれたもので「北欧民族は世界一ぃぃぃ!」を唱え、黒人やユダヤ人が劣っていること、あるいはその存在が国の根幹を危うくすると警告する。1925年に出版されたドイツ語版を読んだヒトラーは、我が意を得たりという境地だったはずだ。惹句の言う「その一冊」を選ぶとすれば、『偉大な人種の消滅』になるだろうか。

『シュリーフェン』は、有名なシュリーフェン・プランを立てたあの人。フランスを攻めるのに直接アプローチは駄目だ、ベルギーを迂回して右から回り込むべし、という戦略を提唱して、第一次世界大戦はいいところまでいった。第二次世界大戦でも、将軍連中はシュリーフェン・プランを採ろうとしたが、作戦計画書を積んだ飛行機が墜落、連合軍に捕獲されてしまったことによりシュリーフェン・プランは見直されることとなり、戦車による走破は不可能と言われたアルデンヌを突破する案がヒトラーによって選ばれた。これが大成功したものだから、以後、ヒトラーは机上の戦略家に過ぎないのに戦術レベルにまで口を挟み、たびたび戦況を悪化させた。蔵書の半数以上の7000冊は軍事関連だったが、自分に都合の良いように拾い読みした知識を押しつけ、参謀本部を困らせたのである。

真面目で模範的な伝令兵だったヒトラーが、どうして第三帝国の総統になったのか、紹介されている10冊だけで読み解くことはできないが、読む本や読書の方法が人に与える影響について垣間見ることができる。あるいは、その時々で読んだ本に焦点を当てたヒトラーの伝記としても楽しめる。

本棚に並んでいる本を見てプロファイルするわけでなく、「ヒトラーはこういう人」という結論ありきなので、伝記として読むのが正しいのかもしれない。



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by non-grata | 2012-12-26 17:38 | 読書

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