おっさんノングラータ

『貧乏人の経済学』と併せて読みたい|食の終焉

d0252390_1772336.jpg「食の終焉」とは、ある日いきなり食料がなくなることではなく、食に対する今の認識が終わるということ。この一世紀、食糧は供給量が増え、価格も抑えられ、味も良くなり、迅速にデリバリーされるようになった。しかしそれらを可能にしていた石油や灌漑用水は枯渇し始め、供給過多の食料により肥満をはじめとする健康被害が問題視されている。今の食システムは、これからも持続可能なものではないのである。

本書は、食に対する人の認識を有史以前から解説してくれる。慢性的に食糧が不足していた狩猟民族は平均寿命が20歳そこそこだったのが、農耕民族になると、天候や災害の影響により食糧不足から完全に逃れることはできなかったが、それでも少しは供給量が安定し、幼児の授乳期間が短くなった。それにより妊娠のサイクルも短くなり、人口も増える。一方でタンパク質摂取量の低下により、狩猟民族に比べて体格は小さくなった。

その後は供給量の増加、人口の激増、食糧不足のサイクルを繰り返す。それがグローバリゼーションのおかげで、ヨーロッパで飢えてもアメリカから供給される食糧で何とかなった。グローバリズム万歳! 「遠い国々への興味が深く織り合わされ、溶け込んでいく。それは共通の目的と素晴らしく複雑な相互依存を伴って、ますます人類を一つの巨大な共同体へと導く」と、新聞の論説委員がそんな幻想を抱くのも無理はない。

化学肥料の発達や食肉生産の工場化に伴い、食糧の価格は低下した。食肉の消費量は増え(1945年の平均的なアメリカ人の食肉消費量は年57kg、1980年には年88kgに増えている)、体格は良くなった。家計に占める食費の割合も小さくなり、1900年の平均的なアメリカの家庭は世帯収入の半分を食費に充てていたのに対し、1980年には15%未満に低下した。浮いたお金は別の目的に消費でき、経済が回る。加工食品や外食産業の発達のおかげで料理にかかる時間が短縮され、女性が家事から解放されて働きに出ることが可能となり、世帯収入が増え、さらに使えるお金が増え、経済がいよいよ活性化する。

いいことずくめのようだが、安い食糧を供給するためには、仲買業者が生産者から買い叩く必要があり、小売店がその仲買業者を買い叩き、小売店は外食店としのぎを削りと、消費者が安い食料品を求めるほどに誰もが苦労するシステムになっている。その消費者にしても、既に摂取カロリーは過剰気味。ところがアメリカ人が平均一日100キロカロリー減らすだけで、食品業界はアメリカ国内の売上げで2兆3560億円〜2兆7360億円もの損失を被るのだというのだから、食品業界が真面目に肥満撲滅に取り組むはずもない。

本書で、特に指摘されているのが食肉の問題。1kgの肉を生産するのに10kgの穀物が必要であり、これは非常に効率が悪い。仮に世界の全人口がアメリカ人並みに肉を食べると、今の穀物生産量では26億人しか養えないという。イタリア人並みにしても50億人だ。それに農業では大量の水を必要とするが、水不足が深刻化している。今の穀物生産量をいつまでも維持できる保証はない。しかも世界規模で見れば人口は増え続けているのである。

何とも絶望的な感があるが、冒頭で書いた通りで、今までの食に対する認識が終わるだけで、これからは新しい食システムと向き合うことになる。それがオルタナティブ農業であったり、水産資源を活用する「青の革命」であったりする。

個人レベルでは、もっと考えて飯を食え、ということになるか。口を開けていれば餌を与えられる今の食システムに疑問を抱き、少しでも自分で料理する。自分で料理を作るなら、食料品店に足を向けるし、材料のことも考えるし、どこで採れた材料を使うのか選択もできる。実際、一人暮らしや夫婦二人だけの世帯では、自炊するより外食したり、コンビニで出来合のものを買ったほうが安くつくこともある(ちゃんと保存して食材を無駄にしなければ、もちろんそんなことはない)。それでも自分で食べるものを自分で作ることにより、多くのことが学べるし、自然と健康に気を遣うようにもなる。これは実体験に基づくので声を大にして言える。

次の食システムをつくり出すのは我々消費者に他ならない。一人一人がもう少し真面目に食と向き合うことで、少しはましな認識を持てるというものだが、そういう余裕のある先進国の人口は減っており、教育の必要な割合の大きい途上国の人口が増えているのが問題なんだよなあと、『貧乏人の経済学』を思い出した。



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by non-grata | 2012-11-01 18:52 | 読書

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